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元全日空顧問 野村紘一さん

次代を担う子どもたちへ vol.2

元全日空顧問 野村紘一さん

By In 次代を担う子どもだちへ 日本の将来のために On 2014年10月12日


オックスフォードのトリニティカレッジで教授が大学でご飯をご馳走してくれたことがありました。ハリーポッターに出てくるような学食で、天井が高く、今にも机が動き出しそうな雰囲気です。イギリスにはそういう建物が残っているんですよね。教授は難しいことを喋っていました。糖尿病の研究など、あとから辞書で単語を調べてやっとわかるような内容でした。

向こうの席では学生が食事をしています。それを見て、気づいたことがありました。学生のテーブルと我々が使っているテーブルの高さが違うのです。食べているものも異なりました。私たちの食卓には魚も肉も並びましたが、学生が食べていたのはコーラとアップルパイだけです。

教授たちは「当たり前だ」と言います。「教える者と教わる者の差はそうなんだ」。教える者は、学問だけではなく全人格的なものも教えていかなければなりません。また、教わる側は学ぶという意識を謙虚に持ち、教授たちを尊敬している。お互いが誇りと責任を持っているのです。

しかし、日本は大人がそうではないと思うのです。今の世代はおそらく、教壇を知らない。みんな「平等」に扱われている。

ですが、上に立つものは上に立つ責任がありますし、それは平等ではないのです。
上に立つ人間がこんなに無責任な世界は日本しかないでしょう。

大人の振る舞いを見て、こどもは育ちます。
親が、大人がしっかりしろよ、と思うのです。偉そうなことをいう必要はありません。あたりまえのことをきちんとやる必要があります。

海外の政治家の中には確かに、女性スキャンダルを起こすこともあります。しかし国民はプライベートと仕事はきっちりわけて考えています。政治家は仕事はきちんとやります。ですから、横領などは絶対にしません。それをしたら政治生命が終わることを彼らはきちんと理解しているのです。

もう1つの例として、テニスの話をしましょう。プロフェッショナルの誇りについてです。
ウィンブルドンは有名なテニスの大会ですが、そこでの話です。試合をしていると、テニスボールを拾う子がいますよね。その子たちをボールパーソンと言いますが、ボールパーソンは簡単にはなかなかなれない役割なのです。あれは、テニスが上手いが選ばれる訳ではありません。学業優秀、ボランティアなどもやって、地域のために一生懸命な子がなるのです。ちいさなことでいいのです。それが一番重要なことです。

 

日本でマナーキッズプロジェクトというNPOに参加していたことがあります。テニスをこどもたちに広げたいという目的でしたが、同時にマナーも教えようという活動内容でした。大事なのは3つです。挨拶をし、約束は守ること。人の嫌がることはしないこと。人が話している時はその人の目を見ること。

最近では、学校の授業に取り入れてくれるところもあります。
2006年から全国で行っていました。その頃、こどもたちから選抜し、ウィンブルドンでボールパーソンを見せようという取り組みをしました。「本物ってこういうことだよ」ということを教えたかった。地味でもいいから真面目にきちんと取り組む。それがプロの道の始まりですから。
日本で一番忘れられているのは、約束を守ることだと思います。政治家は選挙の時だけ言いたいことを言いますが、実現はされません。

永平寺を訪れた時、そこの方が河原の葦とスリッパの話をなさっていました。河原の葦は風に吹かれると同じ方向になびきます。人間も同じ。一本だけ風に逆らう人はいません。人は、弱い。
スリッパは、お客様がいると揃えますよね。でも、トイレのスリッパを見てごらんなさい。ちゃんと揃えている人は滅多にいないでしょう。人は、誰かが見ている時はきちんとするが、見ていないとしないものなのです。そういう考え方は、本当は正しくありません。

天安門事件の時には、こんなこともありました。あの事件の際、現地には日本人も大勢いましたから、ANAは北京から日本への臨時便を出していました。その際、アメリカ人も逃がさなければいけないという依頼がありました。しかし当時の役員が「責任が取れない」と反対したのです。

 

日本は特殊な国です。日本人は本物を見る力が無い。それは本物を見せていないから。では何を見るのでしょう。それが名刺の肩書です。自分の哲学を持っている人が少なく、肩書ばかり見てしまう大人ばかりだからこどもたちは分からなくなってしまう。

ANAに入った時、最初に配属されたのが飛行機の部品を輸入する部署でした。飛行機は足の車輪が一番大事です。圧力が一番かかり、折れたら大事故です。ですから常に整備、修理をします。当時は修理が日本ではできず、アメリカに持って行っていました。4カ月以上もかかります。ではシンガポール航空と共同で工場を作ろう。そういう話が進みました。その際重要なのは、足が折れないための強いクロムメッキの技術です。色々な企業を探しましたが、唯一テイクロという町工場がその技術を持っていました。提携の直前まで話が進みましたが、最終的にANAの役員から反対がありました。テイクロなんて訳のわからない会社と付き合うな、とのことでした。

今ではその企業の技術は、カローラをはじめ、あらゆる車のボディで使われている。
同じような例で、日本アルミットという企業があります。無塩素のはんだを初めて開発したところです。当時日本アルミットは日本で営業をしていましたが、1社も採用しませんでした。名前(実績・肩書)が無いからです。社長は一大決心し、アメリカに飛びました。そうしたら1社目ですぐに採用されました。翌日、別の会社に行っても即採用。そしてアメリカの航空技術関連の上位50社のうち約30社が採用する結果に至りました。彼らは名刺の肩書があるかないかではなく、本当の能力を見分けれられる技術を持っています。その後、やっと日本でも日本あるミットの技術が採用され始めた。

だから子供たちには、本物を見る目を養ってほしい。

イギリスは博物館美術館は無料です。美術館に行くと、座り込んで絵を見る子供たちがたくさんいます。学校の授業で訪れることもあり、そこでは教師が絵について生徒に教えなければいけないこともあります。こどもたちの後ろには一般客も居ますから、半端なことは言えません。教師の手が負えなくなると、学芸員がちゃんと教えてくれるのです。本物の絵を見られ、本物の話が聞ける。だから本物と偽物の区別がつくようになる。
日本も、社会を少しずつ直していく必要があると思います。

イギリスにはストリートミュージシャンがあちこちに居て、レベルはプロの卵の人からこれからやろうって人までさまざまです。観客は上手だと思えばお金を入れますが、そうでなければ通り過ぎるだけ。彼らはとてもはっきりしています。日本は違います。「可哀そう」でお金払ってしまう。コンサートに行った際、休憩時間に観客がこぞって帰り支度を始めたことがありました。「どうしたのか」と聞くと、「今日のあいつの演奏はダメだ、私たちはこんなものを聞きに来たわけじゃない」と言うのです。

「可哀そう」ということはありません。聞く方もやる方も真剣で、プロが育つのです。

日本人のDNAにはなかなか難しいかもしれませんが、もう少しメリハリがあってもいいのではないかなと感じます。

大人が「本物を見る目」を持っていないから、いい資質をもっているこどもが育たないというのもありますよね。

 

駐在員をしていた頃、こどもを現地の学校に入れる同僚も居ました。学校の前には横断歩道がありました。信号は無く、黄色の目印のポールが立っていました。駐在員の親たちは、信号を付けてほしいと依頼したそうです。そうしたら現地の親たちから反対があったそうです。「信号だけ見て渡るなんて、子どもは考えなくなる」。横断歩道があって、ポールがあるのだから、あとは自分自身で危険かそうでないか判断するように教育する。それがイギリスの考え方です。

こどもたちに伝えたいメッセージ、と言うと難しいですが、とにかくこどもにしっかりしろという前に大人がしっかりしろ、ということだと思います。

 

繰り返しにはなりますが、上に立つ者にはその責任があります。それを大人に求めたい。

そして「私は社長を○年やってます」なんて恥に思えと。早く辞めて肩書を取り払い、町の中で若者に話をするなどしたらいい。ヨーロッパでは、秘書が荷物を持ったりはしません。自分の荷物は自分で持ちます。タクシーだって自腹です。
ものの通りが通じる社会になったらいいなという想いです。
イギリスに住んでいた頃、停電がありました。何が起きたんだと思い、部屋から出てフラットの管理人にどうしたのかと聞きに行ったんです。管理人は「なんでお前騒いでるの」という顔でした。「どうしたんだ」と聞くと、「知らないよ」と答える。「どこかに聞いてくれよ」「どこに聞くんだ」こんな調子です。外に出てみました。みんな真っ暗な道を、普段通り歩いています。そのうち、家々の窓にぽっと光が灯り始めました。ろうそくの光です。きっとこの静寂や暗さを、家族で楽しんでいるのでしょう。日本だったら、騒ぎが起きて、110番する人も出てくるかもしれません。新幹線が10分遅れるとニュースになり、電車が3分遅れるとアナウンスで謝罪の言葉が流れる国ですから。イギリス人は、大勢に影響ないなとなれば慌てません。

 

ドアを次の人のために開けておく文化もヨーロッパ、特にイギリスでは根づいています。相手も必ずありがとうと言いますね。日本だとまずお礼は言わない。

これが、おもてなしの国なのかと思う訳です。おもてなしをエンターテイメントのようだと思っている人が多い。

「利休七則」という言葉があります。時間に遅れるな、お茶はすぐ飲めるように少し温めに入れろ。素晴らしいことを言っているように思えますが、当たり前のことを述べているだけです。ですが、あれが本当のおもてなしなのです。日本でいうおもてなしは、どこかセールスプロモーションのよう。おもてなしはあたりまえ、普通のことなんだよと子供に伝えたい。

 

日本の人たちは世界をあまりにも知らなさすぎる。ロンドン大学で日本を研究している教授が、学生100人ほどに対しアジアはどこまでかという質問をしました。日本を含んだ答えは、ゼロ。インドまでという答えが一番多い。それは仕方が無いかもしれませんね。インドはイギリスの植民地でしたから。次は中国まで。つまり、それだけ彼らは日本に関心が無いということなのです。そういうことを言うと、「そんなことはないだろう」という反論が来ますが、思い込みなのです。日本人が海外を知らないからそういうことになる。結果、ガラパコスみたいな国と言われてしまう。

 

本当に、日本は特殊な国。幸せに暮らしている風に見えますが、アマチュアとサラリーマンの国ですよ。

世界で活躍しているプロのバレリーナにお会いしたことがあります。「今日落とされるかもしれない」という厳しいプロの世界で練習を積んできた女性です。人間的に、とても立派。舞台を見に行ったことがあります。バレエは賑やかなシーンだと、たくさんのバレリーナが踊っていますよね。じっと見ていると気づくことがあります。それぞれが、それぞれの演技をしているのです。決して、「その他大勢」ではないのです。みんながそれぞれ主役。彼ら彼女らは「その他大勢」から主役に抜擢される可能性をよく知っている。これが一流か、と思いました。

 

すべてイギリスがいいとは思いません。ただ、イギリスには知恵があります。古いばかりかと言えばそんなことはありません。オリンピック跡地にはドッグランド、金融の街を新しく作りました。近代的な情報システムがきちんと整った町ができたのです。オールドロンドンは、建物に手を入れられません。住んでいたフラットも外見は昔のままですが、中は最先端。日本は再開発だなんて言って、わけのわからないものを作ってしまう。
イギリスは、新しいものと古いもののバランスが取れている国です。

公園も多いですよね。あれは政治的に作っているものなのです。当時の政治家たちは、将来の社会では貧富の差が出ることを予測していました。そこで、みんなが幸せになるためには、収入に関係なく、家族がピクニックに行ける場所を作らなければいけないと考えたのです。彼らには、脈々と将来を見通す力が受け継がれています。
日本の新幹線なんかは、ぴったりと停車位置に止まりますよね。イギリス人はうらやましがりはしますが、一方でこうも思います。「それがなにになるのか」。重要なのは、そこではないからです。本当に必要なのか、と考えれば絶対に必要ない。

 

日本人は本当のことを知りません。知り合いで、なんとか本当のことを伝えられる報道機関が作れないものかと考えた人がいました。思想が混じらない本当の「事実」。東京のテレビ局なんかは難しいでしょう。地方の小さなテレビ局に持ちかけてみましたが、実現はしませんでした。

限りある資源のなかで、自然を保護し、どうやって生きていくか考えていくか。いまはそいう時代なのに、まだ昔と同じような考え方で通用すると思っている大人がいる。そしてそれに感化される子どもが居る。ひどい国になっていると思います。

 

事実は事実として認め、反論せずに「そうか」と言えるのが大人の反応です。
イギリスには知恵としたたかさがあります。日本は、そういうところをイギリスから学んだらいいのではないでしょうか。



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