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前高萩市長 草間吉夫さん

次代を担う子どもたちへ vol.1

前高萩市長 草間吉夫さん

◆本日はブルーでコーディネートしていらっしゃいますね。

イメージ草間市長:はい、ブルーは高萩市のイメージカラーなので意識して洋服にも取り入れたりしています。やはり、イメージを持ってもらうことは重要ですからね。高萩市は太平洋に面していて“青い海”があり、高い建物もないですから天気の良い日はどこまでも“青い空”が広がっている。この2つの青がコンセプトになっています。

◆さっそくですが、この町の市長になろうと思ったきっかけは何ですか?

草間市長:大学を卒業後、私は児童養護施設の指導員として働いていました。そんな中で生まれた問題意識として、児童養護施設に対して正しい認識をしている人が少ないことや、日本の「福祉」にあたる分野の中で、子どもたち、とりわけ児童養護施設に対する取り組みが不十分である現実を痛感しました。そして、そんな環境で生まれてきた子どもたちに満足のいく教育の機会が提供されていない等の社会的な不利益が生じている。この現状を変えたい、そのためには現場からではなく、政治や行政のレベルからアプローチしなければならない。そうした思いから、私のなかで次第に政治家というワードが意識されるようになりました。
スタートはそのような動機ですが、ではなぜ高萩市長に、と問われれば、それは私がこの町に育てられ強い愛着を持っていたからだと思います。
私は生後3日目に乳児院という施設に入り、そして2歳から18歳まで高萩市にある児童養護施設「臨海学園」で育ちました。肉親の縁は薄かったけれども、高萩のさまざまな人の力や助けを受けながら大人になり、松下政経塾で学ぶという幸運まで手に入れることができました。卒塾後も、時折この町に訪れていましたが、そのたびにだんだんと活気が失せていく様を見て悲しい思いを抱くとともに、この町から受けたご恩を返さなければという思いが強くなりました。
高萩市の産業構造は、日本の典型的な産業構造と同じです。サービス業、製造業、あとは農業といった構造なのですが、私個人も、高萩市の、「自己主張できない」といったコンプレックスも、日本人を世界で置き換えるとすごく似ていると思います。これは日本人が抱える課題のように思えます。民族や世界の舞台で考えると卑下してしまう。
日本人は「別の美徳があるのかもしれない」「国内的には良いのかもしれない」などと考えてしまうのですが、ビジネス・利益の実現のために、コンプレックスの解消・解決は必要なのかもしれないと思っています。
そのような思いもあり、これまでの仕事や松下政経塾での学び、経験を高萩市のために生かしていきたいと考え、市長に立候補しました。多くの方々の支援で今日に至っています。

◆市長になられて7年が経ちましたが、市長の目指している町とはどのようなものですか?

イメージ草間市長:「子どもから大人までが地元と自分に誇りを持てる町」を目指しています。
たとえば、私も市長になるまで知らなかったのですが、ここはもともと城下町だったのです。ただ、学校では地元の歴史を伝える機会があまりありませんでした。そこで、小中学生への郷土史の教育を始めました。それぞれの歴史人物にスポットをあて、漫画や肖像画、座像、ポストカードなどでイメージしやすく、親しみを持ちやすくなるよう心掛けました。自分が生まれ育った町のルーツを知ることで、自分を見つめ直し、郷土愛と自尊心を育んでいくことに役立つと思うからです。

◆その中でこどもたちや高齢者の方々にはどのような施策をされているのでしょうか?

草間市長:高萩市の子供たちに、「萩っ子」という愛称を創りました。英語で言うと「ハギッズ」(←はぎ+キッズ←Hag”Kids”)。
市民がわがまちに誇りを持てるような取り組みのひとつとして、そして郷土愛と誇りを持った「萩っ子」をどんどん広げていきたいと思います。
また、高齢者に対しては「生涯現役社会」実現への取り組みを進めています。
時代の流れに逆らうことなくここ高萩でも高齢化が進んでいるのですが、この高齢化社会を切り拓く手立てとなるのがこの「生涯現役」だと考えています。たとえば、「ハギッズサポーター」という取り組みをつくり、小学校では高齢者が授業やクラブ活動へ参画する機会を設けています。子どもにとっては、高齢者から多くを学ぶことができるし、高齢者にとっては子ども達から張り合いを感じたり、ものごとを教える喜びを感じたりするに違いない、そう思っています。現在全小学校で行っていますが、今年度からは中学校でも始めています。
さらに生涯現役フェスティバルの定期的開催をおこない、これを積極的に意識のなかに位置付けることで人生の最後の最後まで自立し、元気でいられるようなモデルを発信しています。他にも生涯現役支援として、条例制定、都市宣言、白書作成、個人表彰制度をやってきました。

◆なるほど。高齢者が生きがいを持って自立した生活を送れるような町づくりをおこなっているのですね。

草間市長:しかし、社会において自立が必要なのは高齢者だけではないのです。児童養護施設で育つ子どもたちも社会的自立のための支援をおこなっていく必要があります。

◆では、市長が考える児童養護施設で育った子どもたちへの自立支援とはどのようなものでしょうか。

イメージ草間市長:児童養護施設の子供たちの社会的な面での自立に関しては「学歴」「経済面」「社会からの正しい理解」という3つの大きなハードルがあると考えています。
日本全体の大学進学率が50~60%なのに対し児童養護施設で育った子どもたちは10%程度です。この要因としては学力や経済的な問題があります。
多くの施設では子ども5.5人に対し職員が1人の体制となっています。したがって、一般家庭とは異なり子ども一人に掛けられる時間が限られてしまいます。そのため、子どもに十分な教育を施す環境が整備できていないのが現状です。また、施設にいる子どものほとんどが18歳になるまでに退所するのですが、彼らには戻る場所(家)がなく、ひとりで生活を送っていかなければならない。そのため経済面でも大学への進学は難しい状況になっています。今は奨学金の制度が整備されていますが、家計のやりくりの仕方も十分に学べていない中で、奨学金を得て苦労してまで進学するという意欲を持てないでいるのが現状です。

◆高校を卒業した子どものほとんどが就職をするのですね。

草間市長:はい。しかし、子どもたちの就職状況もあまり良いとは言えないのが現状です。なぜかというと、学歴社会という構造の中で多くの子どもたちはハンデを負って社会に出ます。また施設を退所した子どもたちは帰る場所がなく、生活のために過酷な条件での仕事や、賃金に見合わないような仕事であっても続けなければならないというケースも多くあります。「帰る場所がない」ということは「心の拠り所がない」ということを意味します。そんな環境から安心、安定した生活が見込めず、チャレンジすることがためらわれるため、機会が減少、あるいは喪失されてしまっているのです。

◆心の拠り所がないことは、結果として子どもたちの選択の幅を狭めてしまっているのですね。やはり、周りの大人には相談しづらいのでしょうか?

草間市長:なかなか難しい状況ですね…。そもそも、正しい理解を持つ大人が近くにいない可能性も大いにあります。児童養護施設を「孤児院」「非行をおこなった子どもの矯正施設」といったようなイメージを持つ大人が少なくないのが現状です。
このため、施設で育った子どもに対して「かわいそう」「学力が低い」などの偏見がいまだに残っていて、そのことが子どもを傷つけ、精神的な面でのマイナス要因となっています。施設の子どもたちに対する誤解や偏見を取り払っていくためには、子供たちがどんな理由で施設に来たのか、どんな生活をしているのか、そのような実態をより多くの人に伝え、多様性を認め合う社会を作っていく必要があると感じています。
もうひとつ、子どもたちの自立が阻害されていることの背景として、施設の状態も挙げられます。先ほど述べたように、施設では限られた,職員数で多くの子どもを見なければなりません。そのため、施設を運営していくにあたって一定のルールが必要になります。施設では一日のスケジュールや決まりなどが細かく決められていて、子どもたちはこれに従って生活することが求められます。そのため、自分で考えて行動するといった主体性や自立性が欠如してしまうのです。この状況も改善していかなければなりません。

◆我々つなぐいのち基金は、高齢者を中心とした方々の支援によって未来の社会を担う子どもたちを支える活動を行っています。日本の次を担う世代にバトンを渡していくイメージですね。皆さまの支援でチャンスが平等に提供される社会に近づけていきたいと考えています。

草間市長:つなぐいのち基金の活動はとてもすばらしいものだと思います。
先ほども話した通り、児童養護施設で育った子どもや経済的に苦しい立場に置かれた子どもたちは未来へ向かって挑戦するチャンスが少なくなってしまっているという現状にあります。こうした子どもたちが健全な教育を受けられるようになるには、継続した支援が必要です。これからも積極的な活動を続けていってくださったら有り難いです。

◆つなぐいのち基金に求められることは何でしょうか。

草間市長:募金、寄付金から、助成までのお金の流れを「見える」ようにすることです。
これによって健全な運営をアピールすると共に、コンセプトに共感していただける方々に対して納得性を打ち出すことが出来るのではないでしょうか?
タイガーマスク基金というのがあるのですが、これはブランディングされているから集めやすいと思うのです。
寄付してくれる方がちょうどタイガーマスク世代だから、賛同とか共感を呼び込めるのだと思います。つなぐいのち基金も賛同していただける人を増やすことが重要です。さらに、賛同者が類似の活動をしていく。このような動きが広まれば、日本がより良い社会に向かっていくと思っています。

◆最後に、今後の日本における児童福祉について市長の考えを伺わせてください。

草間市長:未来の日本を担う子どもたちを育てていくためには、保障を充実させことが必要で、そのためには新たな財源が必要です。この財源を増やす選択肢は少なく、可能性として考えられるのは①予算の組み替え②増税③育児保険④子ども基金の証券化⑤次世代育成債など国債の発行の5つありますが、どちらも難しい状況にあります。
しかし、社会福祉の充実しているデンマークでは、すべての人が同じく人間らしい生活ができてしかるべきという価値観を持ち、保障の充実を図るために税率が高くなっていることを国民は了承、理解しています。またカナダでは、子どもに限らず社会的弱者に対しても、個性としてそれぞれを尊重している文化があります。日本も、日本人の価値観を明確にし、それに応じて社会福祉を充実させるための政策への合意を促していく必要があると思います。
子どもを育てるということは将来の健全な納税者を増やすことにもつながります。
今いる子供たちをどう成長させるのかというように、今あるものを探してそれを磨いてより良い状態にしていくという意識を常に持っていたいですね。

イメージ―大変、勉強になりました。本日はありがとうございました。

草間市長:とてもたいへんな活動ではありますが、日本の将来のために、次世代への支援は必要不可欠です。“誰もが共通のスタートラインにたてるような機会の平等”を社会で保障していくためにお互い頑張りましょう!

草間吉夫(くさまよしお) さん

1966年、茨城県生まれ。母子家庭に生まれ、生後3日で乳児院に預けられ、2歳から高校卒業まで児童養護施設で育った。東北福祉大学社会福祉学部社会福祉学科卒業、東北福祉大学大学院修士課程修了後、児童養護施設に5年間勤務した後、松下政経塾に入塾(第16期生)。2006年1月、高萩市長選挙に無所属で出馬し、初当選を果たした。2010年、高萩市長再選。「ひとりぼっちの私が市長になった!」講談社ほか、多くの著書がある。妻、子供3人の5人家族。