Menu

世界一子どもを育てやすい国にしよう

ひと世代で世の中は変わる。子どもの問題は必ず解決できる。

世界一子どもを育てやすい国にしよう (つなぐ図書館 NO.008)

 

 

はじめに

私事ではありますが、一時期茨城県つくば市の議員さんと市の問題について考える機会があり、そこで待機児童の問題について考えさせられることがありました。さしあたっては、保育園の数と、保育士の給料の少なさが原因だと考えましたが、これをどう解決するべきなのかについて、より根源的な問題を考えなければならないと思っておりました。

本書は、病児保育などを手がけるNPOフローレンス代表理事にして、Newsweekの「世界を変える100人の社会起業家」に選ばれた駒崎弘樹さんと、所得の低い若者世代にも安心して子供を産める社会を作るという理念の元立ち上がった、ライフネット生命保険株式会社において代表取締役会長に就く出口治明さんとの対談を通じて、日本のあり方、わたしたち国民はどうあるべきか、考えさせられる内容になっています。

 

本気で未来に投資できるか

結論から言って、政府は子供の貧困について真剣に投資をしていません。保育士の給料の問題や施設を増やすお金がないというのは、単に優先順位の問題です。日本はGDPにしめる家族関係支出の割合が1%なのに対して、イギリスは4%もの予算を割いています。

この問題について、原因は大きく2つあります。

①選挙において高年齢層がマジョリティであること。原因は人口ピラミッドの変化、若年層の投票率の低さ(60代の投票率の6割程度にとどまる)、地方の議席数の多さ(東京の1票は地方と比べて0.3票程度の価値)が挙げられます。高年齢層の意見が多く政治に反映されている現状で、長期的な目線に立った若い世代よりも、シニア層の、生きている間に享受できる短期的な政策(たとえば年金受給率低下問題など。もちろんそれだけとは限りませんが。)が優先される傾向にあります。

②議員自体が高年齢層の男性が多く、世襲であること。子供の支援政策を議論する場に、当事者である女性がひとりもいない状態は日常茶飯事だと言います。

 

これを解決するためになにができるでしょうか。

①に関しては若者の投票率を上げることですが、それには学校での選挙教育を充実させていかなければなりません。 スウェーデンなどでは学校で選挙の教育があるため、若者の投票率も80-90%であるといいます。

②に関してはクオータ制(女性を立候補者の半分にしない場合、交付税を減額する)などを採用して、法的な力で多様な議員立候補の機会を設けることでしょう。

どちらにしても、ひとりひとりができることはそれほど多くないかもしれません。ですが、まずは知ること、そして間違っていると思ったら声を上げることです。声を聞くことが多くなれば、国民の意識がその問題に傾き、政治家も動かざるを得ないでしょう。

「知る→声を上げる→認知が広がる→対策が始まる」という好循環を作り出すことです。それには一人一人の、特に若者の問題意識の向上が欠かせません。

 

フランスに学ぶ「シラク3原則」

フランスに、先進事例として学べる原則があります。政府が本気で未来に投資する場合のひとつのお手本としてこの3原則をみてみましょう。

具体的には、
・ 女性が産みたいときに産める(いつ産んでも税金で養育費をカバーする)
・赤ちゃんを預ける場所を用意する(特にお金のかかる1年目は100%の金額を保障)
・育児休暇後の仕事復帰で元の人事評価に戻れる
といった内容です。

フランスはこの政策で1994年には出生率1.66%だったのが、15年で2%を超えるまでに改善。人口増加による社会の成長を実現しました。人口は、社会の成長を意味します。人口が減っている状態で、経済の発展は見込めません。経済が停滞すると、お金がなくなり、より税金が増え、結果的に貧困層への負担はさらに大きなものとなってしまいます。

 

幼少期の教育が社会的成功を決める

シカゴ大学で、ノーベル経済学賞を受賞しているヘックマンという経済学者がある実験を行いました。

貧困層の子供達58人に、質の高い保育(子供6人に対して先生が1人の少人数制、週1回1時間半の家庭訪問を行うというもの)を提供し、その後、同水準の子供達65人を比較対象に40年間追跡調査を行ったというものです。結果、質の高い保育を提供された子供達が、犯罪率・生活保護率・失業率が低下、年収は増加したという結果が出ました。これにより行政コストは低下、政府の投資収益率は3.9倍~6.8倍になるとの試算が出ました。特に上がった項目は記憶力やIQといったものではなく、忍耐力や自制心といった能力でした。

このことから、政府の投資先の一つとして幼児教育、具体的には保育園教育義務化などは率先して取り組むべき課題の一つと言えるでしょう。

 

子供の貧困問題

子供の貧困が最近ではメディアなどに取り上げられる機会も増えてきました。実際、日本では6人に1人の子供が貧困状態にあると言われており、中でもシングルマザー・シングルファザーの家庭における貧困割合は50%とも言われています。要するに、1人親世帯の現状改善が課題といえるでしょう。

日本社会において、一人親は残念ながらあまり優遇されていません。「収入を増やす術がない」のに「養育にかかる費用は減らない」ような社会構造であることが、貧困を増加させる大きな要因になっています。

収入はなぜ増やせないか。現在、1人親で正社員になることが非常に難しいとされています。この企業性格も問題ですが、政府における支援の少なさ、養育費の不払い問題など、他国と比べて改善するべき点は随所にあります。また、女性の収入が男性に比べて平均70%少ない点も、日本社会の悪しき風習の一つです。このように「正規・非正規」「男性・女性」でダブルの格差があるのが悲しい現実です。

養育にかかる費用に関しては、特に大学の費用が、子供の養育費の50%を占めていますが、他の先進国をみると、無償か、安価な学費になっています。さらに、他国では支給型奨学金が一般的なのに対して、日本では学生ローンが主流なため、負担は他国と比べて非常に大きいものと言えるでしょう。

 

新しい暮らしのあり方と考え方

以上のように課題は山積みですが、一方で新しい価値観や取り組みも増えつつあります。
たとえば「こども食堂」という各地のNPOが取り組んでいるものでは、月に数回、みんなでごはんを作って食べるというシンプルなものですが、一人親家庭や機能不全家庭の子供達と併走していく優れた仕組みです。

また、コレクティブハウスという地域の共用ダイニングスペースといったものも、徐々に増え始めています。そのハウスを中心として地域ネットワークが形成されると、たとえばお子さんが熱を出した場合でも、ハウスにいる方に連絡を取り、迎えに行ってもらうことだってできるし、虐待されている子供やその親を、地域で監視するシステムにもなります。

「保育園落ちた日本死ね!」というツイートがネット上で拡散され、社会問題に発展したのが2016年2月のこと。名もない一人から国会答弁に発展し、デモまで起こりました。そして3ヶ月半後の保育士の給料が経験者は月4万円アップする「一億総活躍プラン」が成立しました。

ネットが発達した今の時代、所詮一人の意見なんて・・・と意気消沈する必要はありません。一人の声がうねりになり、政治に反映されることだってあるのです。問題だと思ったなら、声をあげましょう。怒りましょう。怒りの感情は悪いことではありません。主張から生まれること、その主張を他人と分かち合うこと、共感しあうこと、それがよりよい日本のあり方を作る原動力になるのです。

 

さいごに

本書では、他にも日本人の働き方について海外との比較を通して意識改革を促すパート、チャイルドファースト社会の実現への論議など、ここでは紹介しきれないほど豊富な内容になっております。どれも日本の根本的な問題を最前線にいるお二方の鋭い視点から解き進めるもので、1ページごとに学びがあります。字も比較的大きく、グラフや図も豊富で、なにより対談形式のため非常に読み進めやすい本の構成になっております。幅広い年代の方に是非読んでほしい一冊です。

 

この書評を読むきっかけとなったつなぐいのち基金のボランティアを通して、また普段の生活の中で、日本をよりよくするためのアクションをとっていくべきだと改めて考えさせられました。

 

(社会人つなぐサポーター/プロボノ 平山太一)