助成先取材レポート

次世代の若者の「フェアなスタート」のために人材と地域の企業をつなぐ!

助成先レポート NPO法人フェアスタートサポート

世間が知らない貴重な「もったいない」人材と地域の企業をつなぐ!

 

今回は、特定非営利活動法人フェアスタートサポート (以下、FSSさん)の助成先取材レポートです。

http://fair-start.co.jp/

最初に、簡単ですがフェアスタートサポートさんのご紹介です。

 

■フェアスタートサポートについて

児童養護施設や通信、定時制高校の若者など、家庭の事情で18歳から就職を目指す若者達を対象に就職支援を行っています。在学中のキャリア教育、実際の就職の斡旋、アフターフォローを3本の柱に活動しています。
(このうち、就職の斡旋はグループ会社である株式会社フェアスタートで行っています)
高校卒業と共に就職する若者達、特に経済的な自立を迫られている若者達に、ひとりひとりの希望や適性を考慮した丁寧なマッチングを行うことで、彼ら彼女らの安定した就職をサポートしている団体です。

 

■事業内容

18歳で就職自立を目指す若者への就労支援

事業の目的
虐待や貧困等の家庭の事情により18歳で就職自立を目指す子ども達、若者達が公平なスタートラインから社会へ巣立ち、活き活きと自分らしく働ける社会を創ります。

個別事業の内容
(1)児童養護施設や定時制高校等の子ども、若者へのキャリア教育事業
(2)児童養護施設や定時制高校等の子ども、若者への個別就労支援事業(就職面談、適性検査、就労体験や会社見学のコーディネート等)
(3)就職後の若者達へのアフターフォロー事業
つなぐいのち基金で助成させていただいた対象事業についても簡単にご紹介します。

 

■助成事業

社会的養護や定時制高校等から自立した先輩のインタビューなど、これから就職を目指す児童へエールを送り、かつ社会的課題を広く世へ発信するツールとして情報誌「エール」を作成し全国の施設や定時制高校へ発送する。
部数:   約4,000部
配布先: 全国の児童養護施設等の児童福祉施設、定時制高校等
内容:  施設や定時制高校等を卒業し社会人になった若者のインタビュー、経験談
施設等で暮らした経験のある30代以上の社会人のインタビュー
施設職員や高校教諭等の支援者インタビュー
団体活動報告

 


まずは、フェアスタートサポートさんが支援する児童養護施設の子どもたちの就職についての現状について、永岡代表にお聞きしました。

 

■子どもたちがつまずく要因となる大きな障壁「必要な情報の不足」を痛感

法律上、児童養護施設の子どもたちは 18 歳になると施設を退所することになります。
(特別延長で20歳まで可能。厚労省は22歳退所を検討中)
大学進学はその後キャリアには大きなものですが、そのための費用は、高校1年からバイトを計画的にしたとしても、給付型奨学金のあてが無い限り、借金となる可能性が高く、多くの子どもたちは就職の道を選ばざるを得ないのが実情です。
神奈川県内には児童養護施設が33施設あり、毎年100人程度の子どもたちが卒業します。(定時制高校は27校)卒業生の進路は、7割以上が就職をしています。

施設の職員の方々も、子どもたちの日々の生活支援で精一杯で、自立支援や就職支援まで手が回らないのが現状です。また、就職についての指導は高校が担うものという認識がされているケースが多いということも、多くの施設の就職支援がなかなか進まない一因になっています。

それに対して、高校サイドも特に普通科の高校などでは、就職に向けた支援はハローワークの高卒求人票とのマッチングや面接指導が主で、就職後の定着率まで含めたマッチングへの意識が低い場合が多いようで、インターンシップなど職業について知る機会の提供や職業適性検査の実施などのキャリア教育が十分になされずに高校生達は就職活動を迎えることとなります。

「どんな仕事があるか、仕事とは何なのか?」もよくわからない中で、住む場所と働く場所を同時に得なければならず、出身施設に比較的近く、会社が独身寮を用意しているという条件を満たすだけで職業を優先的に選んでしまう若者もいます。向き不向きによらず就職する可能性が高いため、早期退職に繋がりやすいのです。東京都の調査によれば、就職して1年以内に退所者の 4 割は最初の仕事を離職しています。ホームレス、水商売の道へ進む若者も少なくなく、就業していてもワーキングプアといった状況に陥るなど貧困の連鎖が起こりがちです。

 

■退所時の、最初の就職がカギに!

永岡代表は、上記のような課題を真に当たりにする一方で施設の子どもたちに強く可能性を感じたそうです。

「とても元気で、コミュニケーション能力が高い若者が多いと感じました。営業向きの子も多いですよ。これはやはり集団生活の賜物ですね。また、高校時代に一生懸命アルバイトに励んでいる若者も多く、高い就労意欲と自立心に心を打たれました」(永岡代表)

「最初の就職を精度の高いものにできれば、彼・彼女達の就職は大きく変わります。
まずは、本人たちがやりたい仕事を考える機会をつくることです。
そして、仮につまずいてしまっても、速やかに次のステップへフォローすることができれば、彼・彼女達の社会人としての歩みはこれまでよりもずっと良いものとなるのです。」(永岡代表)

児童養護施設出身の子どもたちが抱えている就職に関する課題を整理してみます。

<児童養護施設の子どもたちが抱えている就職の課題>
・仕事の種類を知る機会が少ない  ※まず、これが大きな障壁となっている
・キャリア教育の機会の欠如
・高校側も就職後の定着率を意識したマッチングまでは十分に行えていない
・職業の適性検査もない
・施設の職員側のノウハウ不足、業務過多による時間や余裕の不足

このように高卒者の就職活動は非常に厳しい条件となっています。応募できるのは一人一社ずつで、ハローワークの高卒求人票をもとに学校を通してしか採用試験を受けられないケースが多いのです。。また、就活解禁日が遅いなど制約が本当に多く、卒業生と企業の双方にとって非常に限定された範囲での活動にならざるを得ないのです。

 

■「エール」の役割と効能  ~ 情報誌は誰のためのものか? ~

大卒者に比べ、高卒就職者は職場とのミスマッチによる離職率が高く、就職後3年で5割以上が離職しているというデータがあります。前章でご紹介した通り、離職の理由の第1位が「仕事内容が自分にあわない」と出てしまうのも高卒就職者の特徴です。

その離職理由を解消するために何かが必要か?
1.(高校在学中の)就職先や仕事についての情報とマッチングの機会
2.高校や児童養護施設への広報と事業の説明をするためのツール
3.受益者(採用を検討している企業)にとっての明確なメリット
などがあげられます。
そこで作成を開始したのが、「エール」です。

内容は、児童養護施設等の社会的養護や定時制高校等を卒業し社会人になった若者や、施設等で暮らした経験のある30代以上の社会人の経験談などのインタビューと施設職員や高校教諭等の支援者の方のインタビューが中心となっています。

就職に向けて「こんな風に活躍できるんだ!」という希望とイメージを持ってもらうこと、またこれまで支援してくださっている方の思いを十分に知ってもらうことを強く意識しています。

また、インタビューに登場する社会人のインタビューを通して、地元の中小企業の経営者や採用担当者に、児童養護施設等の出身者ならではの強みを認識してもらうこともねらいの一つです。

<児童養護施設等の出身者の強み>
・集団生活の中で養ってきた「協調性」、「コミュニケーション能力」
・厳しい逆境の中生き抜いてきた「自立性」
・圧倒的な「若さ」
・「生きる為に働く事が当たり前」と思う価値観

このように、施設や定時制高校等を卒業する若者達は「かわいそうな」存在ではなく、大きな可能性のある「もったいない」存在なのです。そのような目で社会に映るようになっていくように「エール」を発行しています。
そして、子どもたちの仕事を選ぶ上での貴重な情報であると同時に、子どもたちの価値観の醸成、そして、
企業からの理解を深める、すべての広報的な役割になるように毎号ブラッシュアップしています。
発行当初からはいろんな意味で変わってきています。試行錯誤からのスタートでしたが、毎号4000部を発行し、多くの人の手に届いています。デザインは、学生のインターンから正規の職員として入社してくれた舘林さんが担っています。

但し、情報誌は双方向のコミュニケーションにはなかなかつながりません。採用する企業それぞれの情報の提供も十分できていませんでした。そこで、次のツールとして立ち上げたのが、「18スタート」です。

 

■新たな取り組み「18スタート」でつなぐ

「18スタート」は社会的養護等で育った若者と企業を結ぶウェブサイトです。
求人企業の様子や、社員の写真を盛り込むなど各社の雰囲気を紹介、施設職員や高校の教員も含め、誰でも閲覧でき、マッチングに役立ててもらうのが狙いです。

6月開設の専用の求人サイト「18(エイティーン)スタート」は現在、営業職や製造業、IT関連のプログラマーなど、30社以上の求人を掲載しています。事業内容に加え、社長や社員の写真を載せるなど、単なる求人票にとどまらない「顔の見える」マッチングサイトを目指しています。年内に50社、3年後に200社まで求人企業を増やすことが目標です。

http://18start.jp/

中小企業の経営者の中にはご自身も若くから働き苦労を経験された方も多く、「苦労している若者や育てがいのある人材を採用したい」との声が寄せられています。
施設側でも、できれば施設から比較的近く、ある程度目の届き、いざいという時はサポートできるところに住んでほしいという声も多く聞かれます。

施設等で暮らした若者の中には自立心や就職意欲の強い人も多くいます。中小企業の人手不足解消や技術の継承にもつながります。
その為、地元の志ある経営者や魅力ある中小企業とのマッチングは、若者達にとってだけでなく、施設や定時制高校の若者達、企業、地元、社会と三方良しならぬ、五方良しといった素晴らしい縁につなげることができるのです。

また、ほとんどの求人企業で企業見学や就労体験をすることが可能なので、早い段階から相互でに適性や相性を事前に確かめるステップを踏むことができますので、ミスマッチや早期離職解消の一つの手段としてご活用いただければと思っています。

さらにWebsiteによる効果として、若者達自身、職員さん、あるいは高校教員の方々と一緒に、企業を検索することができるようになりますから、就職や仕事について考える非常に良い「きっかけ」となるはずです。

<ここで企業のご経営者や採用ご担当者にご案内>

「18スタート」は掲載企業を募集しています。
掲載料 10万円 (費用は、採用料・広告宣伝費等として損金処理ができます)
または
法人賛助会員に2口ご加入いただくことでご掲載が可能です。(年会費 100,000円)

■社会課題をビジネスとして解決するためのハイブリットな組織でより強固で継続的な支援を!

どうしても、「社会的弱者」=「かわいそう」というところから入ってしまうケースが多いように思います。
「かわいそう」と上から見てしまっては、本人の良さに気づくことはできません。
そうではなく、「もったいない」という視点でみると、子どもたちの個人の良さや強み、適性などをしっかりと見定めることができます。
児童養護施設等を18歳で巣立ち社会に挑戦する若者達の就労を支えるために、ビジネスの手法で課題解決に挑戦しようと。フェアスタートの事業を立ち上げました。

フェアスタートの組織は、ボランタリーな支援活動を中心とした動きはNPO法人で対応し、企業を意識した就職の斡旋は株式会社で対応するというハイブリットな法人形態で運営されています。
ボランタリーな動きは寄付や助成を受け必要な活動を行い、就職の斡旋は、しっかりとビジネスとして収益化することにより、補助金がある期間だけの一過性の支援ではなく、団体として持続的なサポートとサービス提供ができると考えているからです。

過去、求人広告の営業や就職支援に携わってきたからこそ、情には訴えず、あくまでもビジネス性・専門性・使命感を持ってマッチングを行うようにしています。その方が若者、雇用主、双方のためになります。

組織全体として思い描いている就職サポートは、施設の入所中から就職に向けた教育や準備をしていくこと。そして、退所後に就職した人、つまずいてしまった人を含めた一貫したサポートです。
施設にいる間に、インターンシップ(就労体験)や会社見学会、PCなどのスキルアップ教育などを実施しています。

 


 

次に、永岡さんの素顔にもっと迫るべく、どのような経緯で株式会社フェアスタート、NPO法人フェアスタートサポートを設立されたのか、なぜ「社会的課題」を解決する事業を「起こす(起業)」という道を選択したのか、インタビューをさせていただきました。

 

◇なぜ大学卒業後すぐ、「リクルートHRマーケティング(現リクルートジョブズ)」に入社されたのか?
そしてなぜ起業されたのか?

永岡さんは大学卒業の7年後にフェアスタート、フェアスタートサポートを設立されており、卒業後すぐはリクルートに入社されています。私は1就活生としての視点から、なぜリクルートで働くことを決めたのかということと、またなぜ起業したのか、をお聞きしました。

(永岡代表)
『大学在学時、『30歳までには起業する』という明確な目標を持っていたので、当時リクルート出身で起業する人が多かったので、リクルートに入社しました。会社における、ビジネスとして他の会社とお付き合いをする法人営業の経験、会社のサービスに自分が携わり・提供し・報酬をもらうという経験などは、まさに『ビジネスの筋トレ』であり、起業する前にそういった経験を積むことは大切です。起業した理由としては、『誰もやっていないことをやってみたい』という思いがもともと強く、それを実現するには起業しかないと思っていました。』

個人的に、起業をする人というのは、どうしても成し遂げたい特定の目標を実現するために起業をするものであると思っていたので、永岡さんのように『誰もやっていないことをやってみたい』というワクワク感のようなものから起業に至る方もいるのだと少し驚きました。『誰もやっていないこと』はもちろん前例のないことであり、それだけ不安・不確定要素は多く、苦労も大きいと思うのですが、永岡さんは事業全般についてある程度予想内で進んでいるとおっしゃっていて、未知の状況に対応するための「想像力」は新しいチャレンジには必須であると痛感しました。

◇どういう経緯で、「児童養護施設の子どもたちへの就労支援」という事業モデルでの起業に至ったのか?
なぜ社会的課題を解決することを仕事にしようと思われたのか?

次に、いまの事業モデルに至った経緯と、社会的課題に関心がある人は少なからずいると思われますが、なぜその解決を仕事として、さらに自ら起業してまで取り組もうとされるのかについてもお聞きしました。

 

(永岡代表)
『リクルートで働いていたときに、やる気のある人材が減ったという中小企業からの嘆きの声を聴いていました。その一方で起業準備中には引きこもりやニート、フリータ―等、働くことから遠ざかる若者、児童養護施設出身で働きたくても働けない若者が存在していることに問題意識を抱いていました。そして実際に児童養護施設にボランティアに行ったときに笑顔で元気な子どもたちを見て、中小企業とマッチングできないかと思ったことが、この事業モデルのきっかけでした。また、大学時代から起業したいという思いが強く、お金稼ぎにもなるということで色々なビジネスにチャレンジしていましたがあまり上手くいかず、その時の失敗から、社会への問題に目を向け、社会に貢献する姿勢が大切だと心機一転しました。』
児童養護施設の子どもたちの就労支援と聞くと、ややもすると福祉のイメージを持たれ、一方的に支援するだけ、と思われてしまいますが、そこに中小企業にとっても施設の子どもたちにとってもwin-winとなるような解決策を提示するということは、この「施設出身者の貧困」という問題だけでなく、他の社会問題を解決しようというインセンティブとなるものであると思いました。というのは、山積している社会問題を一刻も早く解決していくためには、ビジネスとして参入してくる企業の力も取り入れることも、十分に解決のための一歩となるからです。そういったソーシャルビジネスの流れを加速していくためには、まずはフェアスタートサポートさんのような先駆をなす存在が必要であると思いました。

 

■素晴らしいスタッフという財産とチームの信頼

フェアストートサポートは、インパクトのある永岡代表だけの組織ではありません。
素晴らしいスタッフとの連携によるチームプレイによって成り立っています。
スタッフのお二人にも少しだけお話を伺いました。

 

| フェアスタートサポート事務局長、西村夏美さん

(西村さん)
『新卒では自閉症児の支援をする会社に入社しました。毎日、本当に悩み苦しみながらアップアップで仕事をしていた感じです。
その会社での出会いやご縁から、課題を抱える子ども、若者のより具体的な支援をしたいという気持ちが強まり、フェアスタートへ転職しました。
永岡代表の前向きな性格と少しの勘違いからフェアスタートに入社することになってから4年
より多くの子どもたちに対して必要なサービスを届けるため、頑張っている自分がいます。
今は、少しずつ成長し、届けられるものも大きくなっている組織の中で、永岡代表がフィールドを全力で駆け回ることができるように組織を守るという役割を果たしていくことで事業の成功、フェアスタートの成長が、より多くの子どもたちのためになっていることを実感しながら仕事をしています。』
| これからの若きソーシャルデザイナー 舘林佑介さん
.
(舘林さん)
『図書館での1冊の本との出会いをきっかけに、将来は社会的ハンデを抱えている人のための仕事がしたいと思い一念発起して外国語系の大学を中退して、福祉専門の大学に通信で再入学しました。
そして、学生時代にインターンとしてお世話になった縁により、フェアスタートにこの春から正規社員として入社することになりました。
今回の「エール」のデザインをさせていただいています。
今後は、事務局の一員として事業の成長によりもっと支援を拡げていくために「伝える力」をもっとつけていきたいと思っています。』

お二人ともやわらかなお人柄に中は熱い闘志でみなぎっている方です。

 

■今後のフェアスタートサポート

2016年10月26日に発表された「子どもの未来応援基金」の2016年度未来応援ネットワーク事業にフェアスタートサポートさんが採択されました。

永岡代表は、支援、サービスを、横浜からスタートし、神奈川県全域、そして中小企業同友会との連携により、関東一円で提供することを目指して動いておられます。
貴重なお時間ありがとうございました。
これからの永岡代表、フェアスタートサポートのみなさんからますます目が離せません。

要注目です!

 

(学生インターン  慶應義塾大学 経済学部 中西 啓太 )

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