助成先取材レポート

セラプレイで 子どもたちの次の一歩をつなぐ

助成先取材レポート 日本セラプレイ協会

郁文館グローバル高等学校 福祉ゼミとの協働プロジェクト「あいりすプロジェクト」の活動として
高校生と一緒に2017年度事業対象の助成先団体 のインタビュ-取材と助成事業の進捗状況の確認にお伺いしたものを取材レポートして報告いたします。

 

【高校生 インタビュー取材】

私たち郁文館グローバル高等学校の2人は9月2日に公益財団法人つなぐいのち基金の助成先である特定非営利活動法人日本セラプレイ協会を訪問し、インタビューさせていただきました。

 

■日本セラプレイ協会 

まず、日本セラプレイ協会さんについて紹介させていただきます。
日本セラプレイ協会は日本の子どもと家族の関係性をより良くすることを目指す、日本で「唯一」のセラプレイ国際本部認定協会です。

|特定非営利活動法人日本セラプレイ協会  (HPより引用)

協会の目的
近年、家族の様相や子どもを取り巻く環境の急速な変化に伴い、家庭が子どもの心理的安全基地としての役割を果たすことが難しくなっています。又、関係性が希薄な社会の中で育った者が、親になり子育ての難しさを子どもの問題と捉えてしまうケースも少なくありません。当協会ではこの現状を打破するため、まずは質の高いセラプレイ療法を提供する専門家を育成し、現在多くの子どもに関わる心理、福祉、教育領域などの専門家にセラプレイからの指導・教育を通して子どもを理解する目を養う事を積極的に行います。そして、家族関係改善や、本当に家族にとって大切なものに気づく環境を創出する事を目指します。

活動概要
当協会は、関係性に焦点を当てた心理療法であるセラプレイを用いて以下の3つの活動を行う団体です。1つ目は,発達や愛着の問題など身近な他者との関係性に困難さを抱える“子どもや家族への援助活動”です。2つ目は、米国国際本部や各国の関連機関と連携の下で行う、そうした援助活動を担う質の高いセラプレイ療法を提供する“専門家の育成活動”です。3つ目は、子どもや家族を取り巻く様々な支援者に対して行う、“セラプレイの知見に基づいた研修活動”です。またこれらの活動の中で研究、翻訳、出版活動等を行っています。

 

日本セラプレイ協会 HP     http://www.theraplay.or.jp/
facebookページ         https://www.facebook.com/theraplayjapan/

■ セラプレイとは?

愛着(アタッチメント)、自尊心(セルフ エスティーム)、他者への信頼を高め、喜びに満ちた関わりを促進し、向上させるために考案された子どもと家族のための心理療法・遊戯療法(プレイセラピー)の一つです。セラプレイは、安心できる環境で遊ぶことによって、子どもたちに自分はかけがえのない存在であり、愛されるべき存在であるということに気づいてもらうことを目標としています。

 

■ 高井代表とセラプレイの出会い

高井代表は、幼稚園教諭として子どもたちと出会い、その後米国で韓国での子どもの心理療法が盛んである現状を知り政府奨励奨学生という形で韓国の大学院心理治療学専攻で修士・博士課程進学したそうです。セラプレイは米国シカゴに本部があり、米国・韓国などで学び帰国後、札幌の発達クリニックに於いて日本で始めてのセラプレイをなさいました。クリニックでの、自閉症スペクトラムの診断を受けた子どもたちとのセラプレイは、沢山のことを教えてくれたそうです。非言語的な相互作用でつながっていく方法は、それまで感情をあらわにしなかった子が彼らなりの表現をしたり、意思の疎通をとったりするようになり、その子どもを否定しない姿勢に感動するエピソードでした。

■ 活動のなかで大変なこと

セラプレイは1965年に、シカゴのヘッドスタートプログラムという、低所得家庭の子どもを対象とした教育支援活動の一環として始まりました。今ではおよそ世界40カ国で行われていますが、高井代表は米国で発展を遂げているセラプレイをそのまま日本で同じように広めていくことに課題があると言います。

その課題を解決するためには、まずセラプレイを知ってもらうこと、しかし「セラプレイを知る」ことと、「セラプレイをする」ということは同じことではないのだそうです。本を読むことなどではなかなかできるようになるのが難しいセラプレイを、少しでも体験し知ってもらうことが増えればと努力していますが、いまだに日本でのセラプレイセラピスト、そしてトレーナーは高い代表ただ一人であるため、支援できる人材が不足している現実があります。また、日本では専門知識を持った人が守られた中で指導を受け、能力を発揮するシステムが確立しているところがまだまだ少ないため、セラプレイを受けることができる親子や子どもたちの人数も少なくなってしまいます。その日本独自の背景と現実を考慮した方法を模索する必要があり、協会としては子どもと親子の為に最善の道を模索中だそうです。

 

■ 活動を多くの方に知ってもらうには

認知促進の意味合いで行う「広報」が「広告」として受け取られないように、今までは口コミのような小さな範囲で広報をしてきました。日本では、そもそも先入観からセラピーに参加することを戸惑う方も多く、正しく伝えるための方法を模索中です。セラプレイを体験することにより、その楽しさを体感してもらえれば、誰もが楽しく取り組める良さが共有できると考えています。セラプレイは「あそび」を通した関係性改善のための一つのきっかけとなればと思います。しかし米国(世界)では修士学位以上の専門家が資格を有しているセラプレイは、心理療法として確立しています。「遊び」とはいえ単なる遊びとして広まってしまうことは危険なことでもあるのです。

 

■ 日本セラプレイ協会のこれから

日本セラプレイ協会は、日本でのセラピストが増加すること、そして子どもたちが子どもらしく生活でき、その子どもなりの自己表現ができるような環境の大切さが日本に広まっていくことを目指しています。

取材を通じて学んだこと

私は、子どもが生まれてから受ける愛情の差による影響などに以前から興味がありました。私はいつか子どもたちやお母さんに関わり、支援できるような人になりたいと思っています。今回のインタビューでは関心があったアタッチメント障害などについて詳しく聞くことができ、自分が考えていたよりも支援の幅が広いことを知り、今自分が高校生として障がいを持つ子供やお母さんになにができるかを考えるきっかけとなりました。(高校三年 N)

実際に子どもの相手をされている高井さんたちのお話をお聞きして自分が持つ障がい児に対しての意識が変わりました。愛着障害や発達障害の子どもたちを対象としてセラプレイを行っていたこと自体に反省したというエピソードから、子どもたちをそういったカテゴリーに当てはめては行けないと思いました。私はこれからボランティアなどを行うとき、相手に対して偏見を持たずに関わるように心がけたいです。(高校三年 M)

※ 高校生のプライバシー保護のためイニシャルとさせていただいています。

 

 


 

【公益財団法人 助成選考委員会 選考委員 よりご報告】

◇助成対象事業

静岡県“被虐待児等処遇向上モデル事業”の一環として、児童養護施設の生活に特に困難さが生じている13名の子どもとその担当職員に対し,個別のセラプレイを週に一度約1年間実施し、モデル事業が終了後、施設側の強い要望と最低5年の長期支援を考えていたセラピストとの意見が合意し、支援事業を継続して現在5年目を迎えているとのことです。

行政の受託事業では、仕様書通りのプロセス管理のみで、実際の受益者である子どもたちがどのような状況であるかがキャッチアップされないケースがあります。
我々のような民間財団はその不足部分を少しでも補完する機能を果たしていきたいと思っています。

そのような中で、状況が厳しい子どもに対してプレイセラピストによる箱庭療法が必要であるということで、そのための研修/セッション用物品と箱庭療法用品(感情表現人形など)の購入のための助成をさせていただきました。

助成金で購入し活躍中の箱庭療法用品

 

◇助成事業の実施状況 (高井代表からの中間報告)

<セラプレイ療法の実施>

子どもたちが映っている写真で表情をお伝えできないのが本当に残念ですが、重ねて訪問していく中での信頼感とメソッドの素晴らしさが分かる、本当に楽しそうな表情をしている子どもたちの生き生きとした様子が伝わってきます。

 

<箱庭療法の実施>

 

<8月の児童養護施設での活動>
4日間にわたって、セラピー、お菓子作り、水遊びなどのプログラムを実施されています。中でも、水遊びは、15人に対して水鉄砲を10本購入して、ルールを作りながら遊ぶというものです。多くの仲間が一緒に、その中で自らルールという枠を作り、それが守られているかどうかをお互いに確認し合う、という今までのセラプレイでのことを集団の中で子どもたち同士で行えるようにしました。ルール違反をした場合には遊びの時間を短縮するという新たなルールも付け加え、全員で楽しい時間を持つためにみんなで工夫をしました。

2017年度助成のテーマの一つである「非認知能力の向上の支援」の有効なメソッドとして機能していることを実感できるもので、プレイセラピーの面目躍如といったところであると認識しました。

 

◇活動の今後とゴールは?

高井代表は下記のように目標・夢を語ってくださいました。

「 一つは、行政からの支援や、地域コミュニティからのサポートが必要です。子どもと親子の支援をしている他団体との協力や、地域の大人を交えて支援 =セラプレイの実施の応援を協力して下さる団体とつながりまずは、場所の確保と長期にわたるセラプレイの安定した提供が目標です。

また、セラプレイを体験した家族からの要望で、学校の先生や、学校での子ども達へのグループをやって欲しいとの依頼が多々聞かれます。しかし、学校との連携がないとなかなかうまくいきません。そのため。学校の教育現場へも活動の場を広げていきたくことを志向されています。臨床心理士やスクールソーシャルカウンセラーと連携しながら、学校教育の文化をともに良い方向にしていきたいとの目標を持っておられます。

日本セラプレイ協会さんが考える活動の理想とゴールとしては
・子どもたち一人一人が、ありのままの自分が受け入れられること
が理想像、活動の目標として考えておられるとのことです。 」

 

◇助成選考委員会 選考委員から

取材を通して、助成先として選考させていただけたことを改めて良い選考ができていると確信することができました。多くの方の寄付等のご支援を、日本セラプレイ協会さんにつなぐことで、フェアなスタートラインに立つことができない厳しい状況にある子どもたちの支援につながっているとご報告できることを嬉しく思います。

日本でもセラプレイトレーナー、専門知識を有するお仲間が増え、支援の輪が拡がることを期待しております。引き続きよろしくお願いいたします。

 

 


< Appendix セラプレイについての参照資料 >

Ⅰ.箱庭療法の有効性
動画)You tube プレイセラピストによる子どもに対する箱庭療法(SandPlay)の効果(英語) 6分の動画
https://www.youtube.com/watch?v=ydG6Ynzrp2Y

文書1)「箱庭療法の治療的要因について」 日本箱庭療法学会理事長の講演録
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/2/23551/20141016143559771201/shinririnsho6_4.pdf

文書2)「児童養護施設における被虐待児との遊戯療法過程:箱庭表現と守り」群馬医療福祉大学
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005124676

文書3)重度情緒障害児のための箱庭療法の実践研究 京都大学 博士論文 H19年
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/136390/1/ykyor00124.pdf

文書4)「箱庭の治療力に関する基礎的研究」
http://www.psych.or.jp/meeting/proceedings/72/poster/pdf/3pm011.pdf

文書5)「プレイセラピー ハンドブック」 プレイセラピー、セラプレイの有効性
Handbook Of Playtherapy Kevin J.O’Connor,Charles E. Scheafer,Lisa D. Braveman
セラプレイ国際本部 The Theraplay Insitute  https://theraplay.org

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